姉の死 vol.20

警察の霊安室へ通された。

ドラマとかだと台の上に遺体が寝かせられて白い布がかけられてて

その布をめくって泣き崩れる……というシーンを見た気がするが

現実はちょっと違った。

違うというか、私らの事情聴取が長引いてしまったため

待つ間に葬儀屋さんが全て整えてくださったのかもしれない。

姉は棺に入れられ、絹の布団をかけられて横たわっていた。

私にとっては7年ぶりに会う姉、

X氏にとっては11日ぶりに会う恋人の姿だ。

ものすごく正直なところ、さっき見えてしまった死体写真よりマシというか

あれに比べたらショックは和らぐような姿だったと思う。

 

顔はピンクに染まっていた。

なぜかはP氏にもわからなかったようだ。

薬品の影響なのか、それとも冷凍庫(か冷蔵庫)で長期保存されたためか。

お化粧は施されていなかった。

まあ、見える部分である顔は原形を留めていたものの

死後11日目の死体だ、もしかすると体はグチャグチャだったかもしれない。

化粧施そうにもあんまり触れたらグチャッとなってしまうから、とか。

葬儀屋さんはつくづく大変なお仕事だと思う。

 

顔に触れたら、冷たかった。

物心ついてから過去3~4回くらい棺桶に入った身内の遺体に触れたが

当たり前だけど、冷たかった。

人形みたいだなと思った。

他の身内の時には、最期のお別れの時は手を握ったり足をさすったりしたものだが

今回、それは出来なかった。

下手にお布団を剥がしたら遺体は悲惨な状態かもしれないから。

 

事情聴取が長引いて火葬場の時間がギリギリとのことでかなり急かされ

最期のお別れは5分程度しか時間を持てなかった。

X氏と私はそれぞれ数枚ずつ写真を入れ

P氏が用意してくださってた大きな花束2つを入れたら

X氏が「これじゃ重過ぎて(姉)子が可哀想だ」と言い出して

花束ひとつは取り出すことになった。

そして、棺桶は閉じられた。

葬儀屋さんも刑事さんも泣いてくださった。

 

ここから火葬場に向かう。

家にも帰らず通夜も葬式もせずにいきなり火葬なんて普通は無いことだろう。

葬儀屋さんはどう思われたことやら。

こんなややこしい事情でも適切なお仕事をなさる葬儀屋さんは

本当に立派なお仕事だと思う。

 

葬儀社の車、遺体と一緒に乗れるのはひとりとのこと。

その席をX氏が私に譲ってくださった。

今にして思えば、ここでX氏を姉の棺と乗せるべきだったと後悔している。

少しでも長く、姉と一緒にいさせてあげれば良かった。

とはいえ、P氏の運転する車にX氏が同乗し

身内である私が棺と一緒に葬儀社の車というのはごく自然な流れだったし

急かされていたので思いつかなかったなあ。

 

某市は観光都市である。

途中、25年前に家族旅行で行った、そして7年前に姉とふたりで行った

某市を代表する観光スポットの横を通った。

「また一緒にここに来たよ」と思った。すごい偶然だ。

 

バンタイプの霊柩車で、後部座席に姉の棺と並んで座った。

棺にずっと手をかけて時折話しかけたりしたが

葬儀屋さんが前の席にいらっしゃったので極力静かにしていた。

もし私でなくX氏が乗っていたら、姉も喜んだだろうな。

 

火葬場は遠かった。

2~30分は走っただろう、辺りが暗くなり始めた頃、火葬場へ到着。