姉の死 vol.32

あーあ、さすがにこの辺りの描写を記すのは気が重いし筆が重いな。

某市で何食べたとかホテルがどうのとかは書いてて楽しかったのに。

 

実家に到着。

チャイムを鳴らし、今まで感じたことのない重たい玄関の扉を開く。

母が出てきた。

X氏は、深々と挨拶とお詫びを言った。

母は「姉子がお世話になりました」みたいな返答をした。

 

ちょっと意外だった。

母はめちゃめちゃ感情的に泣きまくってX氏をなじるかと思ってたけど

良心的な、というか常識的な対応をしてくれて有難かった。

 

客間にX氏を通し、父を呼んだ。

ここでまた超絶意外なことが起こった。

あの冷静な父が、猛烈に大激怒してX氏に敵意を剥き出しにしたのだ。

これは本当に意外であり、私もだけど私以上に母が驚いていた。

母は「ホントに何言ってんだコイツ」という目で父を見た。

 

姉の失踪は、X氏には全く関係のないことだ。

むしろ関係があったとすれば父に要因の一つはあったかもしれない。

失踪が、とは言わなくても失踪後姉が実家に帰らなかったのは

父と姉がうまくいってないという要因は大きい。

母からすれば、姉が実家に戻らず連絡もくれなかったのは父のせいという思いがあり

だからこそ今この場で掌を返したような父の発言が許せなかったのだろう。

「姉子がお世話になってたのになんてことを」とガチ怒り。

 

それなのに、父はX氏に怒りをぶつけた。

父はX氏を「社会的に抹殺する」と罵り、

こともあろうにX氏のお母様の名前まで聞いた。

お母様が一体何の関係があるんだ、このオヤジは何言ってんだと

私は父のこの発言(お母様のくだり)をいまだに許していない。

 

話の途中でこのクソオヤジはどうにもならない話にならないから

いっそX氏、母、私の3人で話せるところへ行こうと席を立った。

が、X氏に止められた。

 

ここでX氏の驚異の話術を目の当たりにすることになる。

 

X氏は、話さえできればどんな相手でも絶対に自分の味方にすることができる人で

この時も、父の懐に入り込もうと必死に話をされていた。

「相手を取り込む」というと意地悪な書き方になるかもしれない、

もちろんX氏が誠心誠意話をしてくださった、という意味だ。

 

最終的に、父の要求は「遺骨を渡せ」ということだった。

私も母も反対した、それは姉の意志に反するのではないか、

それに何より、X氏にお任せするのが姉もX氏も幸せなのではと。

が、父は頑として譲らない。

最悪の場合、分骨で手を打っても良いと。

 

X氏は、生前姉が、失踪して居場所がないことを心配していた。

なので、分骨して姉の体が半々になってしまうのはダメだと。

「姉の夫に絶対に骨を渡さない」ことを条件に、

遺骨をこちらに譲ると言ってくださった。

心配要らんよ、元夫が遺骨を欲しがるなんてことは絶対に無いから。

 

そして今後一切の法事はこちらで行うと、父は告げた。

ありゃ、翌日には某市で四十九日するんだがなと内心思った。

 

さて、ここで私のミステイクが盛大にバレることになる。

ウチの宗派を間違えてたこと。

それが、私が「〇〇〇宗」じゃなかったっけ?とすっとぼけたところ

母まで「〇〇〇宗だよね」と間違い、父大激怒。

でも母までも間違ったことで、X氏的には間違ってるのは父ではと思ったようだ。

 

余談だが、私は信仰心が弱い。

私ほどじゃないが姉もそうだと思う。

人が亡くなってどんな宗派でお経をあげるとか、そんなに重大なことかいな?と思う。

X氏のお母様は「どうせ逝くとこ一緒じゃん」で宗派が違っても拘らなかったと

後からエピソード聞いたが、ぶっちゃけ私も同感である。

どんな宗派でお経をあげてもらったところで亡くなった人は帰ってこない。

特に私が間違えた〇〇〇宗は坊さんの見た目もかなり俗っぽいので

あまり印象が良くないのかも。

 

この日の話では、近日中に遺骨を持ってくるという話でまとまった。

父は終盤は若干態度を軟化させたように見えた。

母はすっかりX氏の虜となっていた。

 

X氏はこれからもまた来るよ、しょっちゅう来るよと告げた。

この言葉通り、ウチにこれから何度も来訪することになる。

そしてそれは、老いた両親にとっての楽しみ、

特に母にとっては最大の楽しみとなっていく。

 

X氏を駅まで送った。

この時、駅向かいのホテルのパーラーでお茶したっけなどうだったかな、

その後パーラーでお茶(ケーキも)は、割と定番となりつつある。

 

X氏を送った後、私は実家へ戻った。

両親と何か話をしたはずだが、この日の夜父がどんな風だったかあまり記憶にない。

母は「玄関開けた瞬間X氏を見て私もタイプだと思った」とアホなことを言っていた。

 

翌日は私がコッソリ某市へ行かなきゃならん。

荷物は車の中に隠してある。