姉の死 vol.19

警察署の建物内へ足を踏み入れた。

それまで車内では3人わりと和やかに話をしていたのだが

さすがに口数が減り、ピリリとした空気が漂った。

 

警察署内の、2~3畳しかない小さな部屋に通された。

おおー、これって取調室なのか?窓に鉄格子は無いけど。

今考えてみたら取調室じゃなくて単なる面談室?か何かかな。

建物が新しそうな分、部屋の色調も明るい。

 テレビドラマとは違うな。

 

私に初めて電話をくださった刑事さんが応対され

刑事さん、X氏、私が部屋に入った。

遺体を引き渡す前に事情聴取があって、各種書類を作成するものだった。

 

姉と私は間違いなく姉妹ではあるものの

お互い別々の嫁ぎ先へ籍を移して名前も変わってるため、姉妹と証明するものはない。

証明するものをと言われて仕方なく、昔姉から届いた年賀状を示した。

これならお互い住所氏名書かれてるし。

意外にも?それでOKだった。

つかここまで来たら警察だってOKせざるを得ないしな。

 

刑事さんは事件の載った分厚いファイル?資料をパラパラとめくった。

すると見えてしまった、発見当初の姉の遺体写真。

ムームーみたいなデザインのパジャマを着てて

顔が異様にむくんでいた。

刑事さんはすぐに私の視線に気づいて資料を机の下に入れてめくったが

遅い、見えてしまいましたよ……。

かなりショッキングな写真だった。

 

刑事さんとは、姉が失踪した日時とかその時の様子とか

その後連絡を取った時のことなどを聞かれた。

鬱状態をいつから患っていたのかも。

そして最後に連絡を取った日や、その内容など。

 

姉が亡くなった状況についても説明を受けた。

厳密な死亡時刻は、解剖結果の推定でしかないが

2019年10月7日朝7時とされた。

死因は大量の薬物(向精神薬とか抗うつ剤の類)による自殺と。

 

X氏は第一声、刑事さんに聞いた。

「(姉)子は苦しまずに死んだんでしょうか」と。

ああそうか、本当に愛情がある人はまずそれが一番気になるんだよなと思った。

 私なんて正直、一番に聞きたかったのは「どっから薬を手に入れたか」だったのに。

 

通常人間は自殺を図った際、無意識のうちに喉やら胸やらかきむしるらしい。

その傷が無かった姉は、苦しまずに一瞬のうちに逝けたと説明を受けた。

本当かどうかはともかく、その説明が刑事さんのお心遣いと感じた。

薬は、市内の心療内科全て当たったが姉の受診履歴は無く

恐らくネットで入手したんだろうと。

 

「この薬です」と、ビニール袋に入れられた大量の薬殻を見せられた。

中には、中身が入っているものも中身だけ飛び出してるものもある。

これは持ち帰りますかと刑事さんに聞かれたX氏は断ったが

私は「持ち帰ります!!」と訴えた。

自分の時に参考にするために。

姉は私に「確実に自死する方法」を伝授してくれた。

元々子供のころから自殺願望があったのは私の方だと思っていたのに

やっぱ同じ家に育った姉妹だなと実感。

ウチの親はふたりの娘に自殺願望を植え付ける育て方をしたってのも凄いよな。

そういう意味ではDVでっちあげも満更間違いではないかもしれない。

薬殻は今でも私の自室の奥に仕舞ってある。

いざという時は検索するために。

 

その他現金や免許証、バッグなどを引き取る書類にサインした。

実は現金は(私にとっては)結構な大金だったのだが

当然、これはX氏に渡すべきものだ。

 

遺書も返された。

薬品を使って何か調べたそうで、紙は紫に変色し字も滲んでいた。

ドラマとかでは遺書ってきれいな状態で返されるのに

現実はこうなんだなと思った。

 

その時、じっくり全部は読めなかった。

ただ、昔から姉の文章をよく知る私にはわかった、

姉は確かに正常ではなかった、それが文面に表れていた。

本当に死ぬ人間の書く遺書はこんな風に狂ってるんだと実感。

ドラマなんかではやたらきれいな文面の遺書が出てくるが、現実は違う。

 

死亡届や死亡何とか書(解剖結果書かれてあるやつ)もサインした。

これは正確な原本ではないが、これを基に正式書類を作成するとのこと。

 

そうそう、書き忘れ。

私はボイスレコーダーを準備していたのだが録音し忘れてて

途中で刑事さんが退席された時にこっそりスマホのボイレコを点けた。

録音は死因説明の辺りから30分くらい撮れていた。

もしこの先、両親にバレる時が来たら必要かと思って。

 

事情聴取が長引いたので、下では火葬場の時間が無くなると

ハラハラしながら待っていたらしい。

途中急かされたりしながら、事情聴取を終えて霊安室へ向かった。