ほら穴

小学5年生の時のこと。半年ほど、郊外というよりも街外れのド田舎の家で暮らしたことがある。

周囲には山や田んぼしかなく、同じ年頃の子供もいなかったので、いつもひとりで、近所の神社やその裏手にある山や竹やぶを、いろんな空想をしながら歩き回るのが常だった。季節は秋・冬で、山の中もそれほど茂っていなかった。

ある時、道路から少し離れた丘の下の方に、ほら穴を発見した。入り口は人が四つん這いで入れる程度で、形の良い洞穴入り口だった記憶がある。

熊か何かの巣なのか、たまたま出来た洞窟なのか、それとも異次元への入り口のトンネルなのか・・・?と興味を抱きつつも、絶対蛇がいそうだなとか、熊が飛び出してきたらどうしようとか考えて、気になりながらも中を覗く勇気が無かった。

その後、私は引越しをして「そういえばあの洞穴は何だったんだろう」と時折思い出しつつも段々と記憶が薄れていった。
本当にそこに洞穴があったのかどうか、もしかしたら私の空想の中の出来事かもしれないと思うようになった。

あれから20余年。鹿児島の中学生中毒死事件のニュースをTVで見た。

あの形、あの場所は・・・。

私の見たあの洞穴も、防空壕だったのだ。
今の今まで気づかなかったというのもどうかと思うが、なるほど、そうだったのか。

私があそこで遊んだ僅か30年前は、現実に人々が戦火を逃れて、防空壕に避難したこともあっただろう。
どこかの街で「これが戦争跡」と見学に行った時とは違う、実際に自分が居た場所に、リアルな戦争の爪痕を見ると、なんともやるせない気持ちになった。

今でも、あの防空壕は残っているのだろうか。